飛躍の源泉

自動車から医療機器への参入

東京経済大学経営学部准教授
山本 聡 氏

東京都文京区にある従業員52人の株式会社東鋼は1937(昭和12)年創業の特殊精密切削工具メーカー。現在は3代目の代表取締役社長、寺島誠人氏と、妻で社長室長の美由紀氏が協力して経営を切り盛りしている。

大手自動車や自動車部品企業向けに特殊精密切削工具を製作し、燃料噴射装置の製作に使われる切削工具やF1エンジン用の切削工具を供給してきた。だが、長く依拠してきた自動車産業向けの売り上げが低下傾向となり、2006年ごろから寺島夫妻は新たな市場への参入を企図。美由紀氏がJIMTOF(日本国際工作機械見本市)で知り合った医療機器メーカーに依頼され、人工関節を体内に埋め込むために骨を切ったり、削ったりするための医療術具を供給するようになった。そこには、同社が自動車関連企業との取引で培った短納期・小ロットの切削工具の開発・生産に関する深いノウハウが介在している。

今では国内最大手の医療機器メーカーをはじめ、ほとんどの医療機器メーカーに医療術具を供給する同社。また、医療機器は国内より海外の市場の方がはるかに大きいため、ドイツなど海外の国際展示会に出展を重ね、ドイツ製機械を導入したり、欧州各国を視察するなどして市場を広げている。

2016年1月18日

株式会社東鋼 :

東京都文京区本郷5-27-10

過去記事一覧

山本聡

1978年生まれ。
機械振興協会経済研究所を経て、2012年東京経済大学経営学部専任講師として着任、2015年准教授(担当は中小企業経営論)。金型や部品加工など素形材産業を主な対象としながら、国内外の中小企業の経営体制の変化を解明することが研究テーマ。経営者や技術者向けにレポートを執筆するほか、さまざまなセミナー講師も務める。
【山本聡の研究室】

山本聡