日本の問題

円安効果のプラスとマイナス

社会経済学者・エコノミスト
斎藤 精一郎 氏

「アベノミクス」が始動して約2年半。円相場は1ドル=80円程度から125円前後へ50%強も下落した。それに伴い景気は回復の度を強め、賃上げや雇用増も拡大。円安が輸出関連企業や海外事業展開企業の収益を円換算で拡大させているからだ。

「やはり円高より円安のほうが圧倒的に良い」と考える人は多いが、その前に円安のマイナス効果を理解する必要がある。生活用品は輸入に強く依存するから、円安は消費者にはマイナスだ。原材料・部品などの調達を輸入に頼っている企業も多く、円安で輸入金額は膨らむ。輸出・海外関連企業の場合、円換算での収益増で輸入コスト増を賄えるから差し引きプラスだが、内需型の中小企業は輸入コスト上昇が収益減に直結。株高の恩恵も株式投資を行える富裕層と一般勤労者層とでは異なる。

今回の円安局面では、大幅な原油安で消費者や中小企業へのマイナス効果が打ち消されているから、円安デメリットは目立っていない。だが、本来、輸出・海外関連企業と内需型中小企業、富裕層と一般家計の間に不公平感や格差が生じる点を見過ごしてはいけない。

2015年7月6日

過去記事一覧

1940年生まれ。社会経済学者・エコノミスト。
1963年日本銀行入行。1972年立教大学社会学部講師に転身し、助教授を経て1980年教授。テレビの経済情報番組でコメンテーターも務める。1991年4月から2015年6月までNTTデータ経営研究所(株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所)所長。

斎藤 精一郎氏