日本の問題

トランプ政権の保護主義

学習院大学国際社会科学部教授
伊藤元重 氏

米トランプ政権の保護主義的な貿易政策が世界を揺さぶっている。TPP(環太平洋パートナーシップ)協定の交渉離脱、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉など、次々にこれまでの通商交渉の秩序を壊すような動きに出てきた。極め付けが、鉄鋼やアルミなどの製品に対する一方的な関税引き上げ宣言。海外からの輸入が増えて国内の生産が落ち込み、安全保障上の脅威になっていると主張している。安全保障上の理由で関税を引き上げることはWTO(世界貿易機関)のルールで認められているが、鉄鋼やアルミの関税引き上げを安全保障で正当化するのは無理がある。

欧州はこれに反発して報復関税を検討し始めた。報復関税が本格的に発動されると貿易戦争に発展するリスクがある。ただ、ここにきて特定の国を関税引き上げリストから外したり、輸入制限品目を限定したりするような水面下の交渉が始まっているようだ。トランプ政権の行動が、今年秋に行われる中間選挙対策であると考えれば、ことを荒立てるより、トランプ政権の顔を立てながらも無難な形で決着するほうが、多くの国にとって好ましいという計算が働いているのだろう。それは米国でも同じだ。日本にも交渉のしたたかさが求められることになる。

2018年4月2日

伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。現在、学習院大学国際社会科学部教授、東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)