飛躍の源泉

酒造りは良縁を醸すサービス業

名城大学経済学部特任助手
大前 智文 氏

愛知県の奥三河地域、北設楽郡設楽町で醸造業を営む関谷醸造株式会社。同社は1864(元治元)年に創業、代表銘柄「蓬莱泉(ほうらいせん)」は愛知の地酒として人気だ。

転機は1980年代、「越後杜氏」の後継者不足から、自前の「社員杜氏・蔵人」を育成する必要に迫られたこと。その過程で、昼夜を問わない酒造りの厳しい労働環境を改善するため、生産工程の合理化・機械化を推進した。長期的な計画に基づき、全社を挙げて問題解決に取り組んだ結果、企業組織による高品質な日本酒の一貫生産体制を確立するとともに、「誠実においしいお酒を提供する」という単純明快な酒造りの原点を再発見した。

近年は、地域に根ざした酒米「夢山水」などの自社栽培、実験的な新商品の少量生産・販売、添加用アルコール(米焼酎)の自社生産などの新たな取り組みを進め、また、酒造り体験や酒造セミナーの開催、飲食店経営による情報発信などから顧客との接点を広げている。

7代目社長の関谷健氏は「お酒は人間の豊かな生活や食事を演出する小道具。酒造りは製造業というよりはサービス業」と話す。「和醸良酒(人の和が良酒を醸し、良酒が人の和を醸す)」を合言葉に、様々な良縁を醸す企業として研鑽と挑戦を続けている。

2015年7月13日

関谷醸造株式会社 :

愛知県北設楽郡設楽町田口字町浦22
【関谷醸造株式会社 HP】

過去記事一覧

1982年愛知県生まれ。
2013年に名城大学経済学部特任助手に就任。同年より日本中小企業学会幹事。駆け出しの研究者としてフィールドワークを重ね、中小企業に関する調査・研究に取り組む。

大前智文