時代を読む

デフレからの真の脱却

大阪経済法科大学
経済学部教授
米山秀隆 氏

消費者物価指数(除く生鮮食品)が2022年4月から現在まで前年比2%を超える上昇を続け、日銀が目標とする安定的な2%の物価上昇が実現される状況になりつつある。

物価上昇の起点は新型コロナ禍後の景気回復過程におけるエネルギー需要の高まりと、ロシアのウクライナ侵攻に伴う原油供給不安がもたらしたエネルギー価格の高騰であった。また、物価上昇が加速したアメリカが2022年に金融引き締めに転じたことは金利が上昇したドルが買われる要因となり、大幅な円安を招いて日本の輸入物価を更に上昇させる要因となった。

当初、エネルギー価格高騰が一巡すれば、消費者物価上昇率は鈍化するとみられていた。実際、エネルギー価格は現状、物価の押し下げ要因になっている。しかし、代わって物価の押し上げ要因になりつつあるのがサービス価格である。新型コロナ禍後のサービス需要の回復、それに伴う人材確保のための賃上げが、サービス価格上昇をもたらしている。

このことは、日本の物価が輸入物価上昇に伴い上昇するという段階から、賃上げに伴って上昇するという新たな段階に移行しつつあることを示している。日本経済が、物価が上がり賃金も上がるという好循環に入りつつあるとすれば、その逆である物価が下がり賃金も下がるというデフレの悪循環から本当の意味で脱却したといえる可能性が出ている。

2023年7月18日

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米山秀隆 氏

1963年生まれ。
野村総合研究所、富士総合研究所、富士通総研などを経て2020年9月から現職。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に、『捨てられる土地と家』(ウェッジ)、『縮小まちづくり』(時事通信社)、『限界マンション』(日本経済新聞出版社)など。
【米山秀隆オフィシャルサイト】

米山(よねやま) 秀隆(ひでたか)氏