日本の問題

ステルス・テーパリング

学習院大学国際社会科学部教授
伊藤元重 氏

大胆な量的緩和を進めてきた日本銀行であるが、今後の動きがどう変わるのか、注目が集まっている。公式には大胆な緩和姿勢を変えないと言っているが、ひそかに緩和政策の見直しに動いていくのではないか。市場はそうした疑念を持ってみている。これを「ステルス・テーパリング」と呼ぶ。「テーパリング」とは過度な金融緩和をやめていくことであり、現在の米国や欧州の中央銀行がそうした方向に動いている。「ステルス」とは、気づかれないようにひそかに、というような意味だ。つまり、ひそかに金融緩和から撤退していくことをこう呼ぶのだ。

金融緩和策は重要な役割を果たしてきた。ただ、物価上昇のスピードは遅く、過大な緩和策の弊害も目につく。国債や株式の購入額が大きすぎて、市場が機能しないだけでなく、日銀の資産リスク要因ともなる。超低金利で金融機関の収益構造が崩れてしまっている。金融緩和の姿勢は維持しながら、弊害を減らすよう、国債や株式の購入を減らし、10年物国債の金利をゼロに置いている目標を5年物国債に変えていく。こうした方向に 向かうのではないか、と市場関係者はささやいているのだ。もちろん、日本銀行からはそういったメッセージは一切ないのだが。

2018年8月6日

過去記事一覧

伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。現在、学習院大学国際社会科学部教授、東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)