日本の問題

新しい働き方

東洋大学国際学部教授・慶應義塾大学名誉教授
竹中 平蔵 氏

7月に閉幕した通常国会で、労働基準法が約70年ぶりに大幅改正された。もともとは2015年に国会に提出された法案だが、様々な反対意見が出され、成立までに約3年を要した。

とりわけ反対が多かったのが、仕事の成果を、労働の時間ではなく仕事の中身(質)で測る、いわゆる高プロ(高度プロフェッショナル制度)だ。工場での集団労働のような場合は、1時間余計に働けば、その分間違いなく生産が増える。

しかし、アナリストのような知識集約的な業務では、そうはいかない。仕事の評価は、労働時間ではなく成果で行われる。この当たり前の話が、日本ではなかなか通じない。この制度は「残業代ゼロ」などとレッテルを貼られ、議論は難航した。だが、残業代がゼロなのではなく、そもそも残業という概念があてはまらない仕事なのだ。

結果的にこの法案は、いくつかの条件をつけて認められた。アナリストなど省令で定める専門的な仕事をしていて、かつ年収が1,075万円以上の高度人材、さらに本人の同意がある場合に限って適応されることになった。

専門家としての高度な技能を身につけて、自由で裁量的な働き方ができる人が増えてほしいものだ。今回の改正は、その小さな一歩になる。

2018年8月20日

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竹中平蔵 氏

1951年生まれ。
ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学教授などを経て2001年の小泉内閣発足後、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣などの閣僚を歴任。現在、東洋大学国際学部教授、慶應義塾大学名誉教授。政府の各種会議のメンバーも務める。
【竹中平蔵公式ウェブサイト】

竹中平蔵(たけなか へいぞう)