日本の問題

消費税の意義を考える

学習院大学国際社会科学部教授
伊藤元重 氏

2019年10月に日本の消費税率は10%になる予定だ。2度の引き上げ延期の後だけに、8% から10%に上げるのにずいぶん時間がかかった。欧州諸国では20%を超えるような消費税率が珍しくないことを考えると、日本では消費税を上げることにまだまだ強い抵抗感があるようだ。政府も引き上げに非常に慎重であった。

日本では消費税と呼ぶが、正確には付加価値税である。消費者だけが税金を払っているわけではなく、生産から流通のそれぞれの段階で付加価値に税金が課される仕組みだ。消費税と呼ばずに付加価値税と呼べば、国民の引き上げに対する抵抗感ももう少し小さかったのかもしれない。

消費税は実は、今の日本に非常に合った税制ではないかと考えている。高齢化が進むと、勤労所得にかかる所得税に重点を置くことは不公平感が増す。年齢や働いているか否かにかかわらず、消費に一定額の税金がかかる方が好ましいように思える。薄く広くということだ。

加えて、消費税の税収は景気に大きく左右されない。医療や介護など社会保障の税負担が増大することが予想される中では、安定的な財源としても期待できる。日本の将来のため、消費税の存在意義を改めて考えるべき時だ。

2018年11月5日

過去記事一覧

伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。現在、学習院大学国際社会科学部教授、東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)