飛躍の源泉

「変えること」と「変えないこと」

名城大学経済学部特任助手
大前 智文 氏

愛知県豊田市に立地し、「愛知の豆味噌(八丁味噌)」の製造・販売を営む合資会社野田味噌商店。地名に由来する「蔵元 桝塚味噌」の名で親しまれるとともに、数少ない「本物の味噌を醸造する(育てる)」企業として注目を集めている。

1928(昭和3)年創業。1950年代以降、味噌醸造業界内では「速醸法」に代表される大量生産技術の開発・普及が進むなかで、杉や檜の大桶による天然醸造という古来の方法を堅持することを決断。約400本を数える使い込まれた木桶、酵母が住み着いた味噌蔵、緻密な石積みの技術など、味噌の醸造・熟成に欠かせない部分を「変えないこと」として位置づけた。その一方、味噌の本質を侵さない部分については「変えること」として自動化・機械化を推進。近代的な食品加工場を新設するとともに、継続活動である消費者への情報発信や食育に注力する。

3代目の野田清衛氏は「『変えないこと』を見定めることで、他のすべてを『変えること』としてとらえることができた」、「3つ壊して1つ創る。感覚としては常に会社を壊してきた」と話す。企業として継続し、脈々と受け継がれてきた「生き物としての味噌」を未来に伝承するために、吟味を重ね、想いを込める。

2017年3月6日

合資会社野田味噌商店 :

愛知県豊田市桝塚西町南山6番地
【合資会社野田味噌商店 HP】

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大前智文

1982年愛知県生まれ。
2013年に名城大学経済学部特任助手に就任。同年より日本中小企業学会幹事。駆け出しの研究者としてフィールドワークを重ね、中小企業に関する調査・研究に取り組む。

大前智文