飛躍の源泉

左官業の慣習を改革

立教大学経済学部教授(金融論)
山口 義行 氏

人手不足や若者の離職に悩む中小企業は少なくない。特に左官業界では職人の平均年齢が60歳前後ともいわれ、その数も減少の一途。そんな危機的状況の中立ち上がったのが東京都文京区にある有限会社原田左官工業所の3代目社長、原田宗亮氏だ。

左官業を若者や女性が活躍できる場に―。

そう掲げた原田氏は、若者が定着しない理由のひとつである「技術は盗め」という慣習を改革した。採用した育成方法は、名人のビデオ映像を見てまねるモデリング訓練。本人の塗り姿も撮影し、先輩がついて名人の動きとの違いをその場で指摘し修正する。その結果、技術習得が早まり、早い時期から仕事の一部を任せられるようになった。

4年の見習い期間が終了し一人立ちする「年季明け」には、家族や取引先を集めて大々的に「年明け(ねんあけ)披露会」を行い、4年間の成長を収めたフォトブックを家族にもプレゼントする。両親は「いい会社に入った」と喜び、見習い工たちには憧れと責任感が芽生える。同社では現在、46人の職人の過半数を20~30代が占め、そのうち8人が女性である。

様々な工夫を凝らし実践することで危機的状況を打開する。若き経営者の「危機打開力」は多くの中小企業が見習うべき力である。

2017年3月20日

有限会社原田左官工業所 :

東京都文京区千駄木4-21-1
【有限会社原田左官工業所 HP】

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山口義行(やまぐちよしゆき)氏

1951年愛知県生まれ。
2001年に立教大学経済学部教授に就任。外務省参与として中小企業の海外展開、関東経済産業局「新連携支援」政策の事業評価委員長として中小企業連携支援にかかわるほか、企業経営者との勉強会を全国で開催するなど、自ら中小企業支援を積極的に展開。
【山口義行・公式HP】

山口義行氏