日本の問題

政冷経熱

学習院大学国際社会科学部教授
伊藤元重 氏

日韓関係が難しい状況になっている。国交正常化以来、最悪といっても過言ではない。徴用工の問題など、政治や外交の問題で両国がすぐに歩み寄ることは難しいが、気になるのはそれが経済関係にどのような影響を及ぼすのかということだ。

残念ながら政治や外交での日韓の軋轢や衝突は、経済関係にもマイナスの影響を及ぼしてきている。韓国では日本製品の不買運動が広がり、日本ブランドの商品の売り上げが大きく落ちている。日本への観光客の数も落ち込んでいる。日本でも韓国の政治リスクを意識する企業が増えているのか、日本から韓国への投資も低下傾向にあるようだ。

こうした事態をみていると、少し前によく話題になった「政冷経熱」という言葉を思い出す。もう15年ほど前のことだが、当時の小泉首相の靖国神社参拝をきっかけにして日中の政治摩擦が深刻になった。それにもかかわらず日中間の貿易や投資などの経済関係は順調であり、政治は冷えているが経済は熱いという意味で、この言葉が使われた。ちなみに中国と台湾の関係も政治は冷え切っているが、経済関係は緊密さを増すという状況が続いた。

翻って現在の日韓関係は経済にも悪影響が及んでいるが、中長期的にこのような状況が続くのか、それとも「政治は政治、経済は経済」という「政冷経熱」になるのか、もう少し様子をみないとわからない。

2019年9月9日

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伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。現在、学習院大学国際社会科学部教授、東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)