日本の問題

SDGsの先駆けだった渋沢栄一

大阪経済大学客員教授・経済評論家
岡田 晃 氏

前回の本コラムでは、渋沢栄一がピンチをチャンスに変えて日本経済の基礎をつくったことを紹介したが、渋沢は同時に、経済活動は「道理」「道徳」に基づかなければならないとの信念を持っていた。この考え方は「道徳経済合一説」と呼ばれる。

渋沢の講演録をまとめた『論語と算盤』には、「正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ」、「社会に益することでなくては正しい事業とは言えない」といった趣旨が繰り返し書かれている。

渋沢が設立・支援した約500の企業も当時の日本に必要であり、社会全体に利益をもたらす事業ばかりだった。それが日本の経済発展という「永続」につながったのだ。

こうした考え方は、今日の「ESG(環境・社会・ガバナンス)」や「SDGs(持続可能な開発目標)」に通じるものと言えよう。

新型コロナ禍でESGやSDGsの重要性は一段と増している。各企業にとって感染拡大防止対策やテレワーク、オンライン化などは社会的要請となっているが、それらに適応するだけでなく、新生活様式に対応した新商品・新サービスの提供など、新型コロナ禍で生じた新しいニーズを取り込むこともSDGsに沿うものだ。まさに「正しい道理」や「社会に益すること」であり、それが「永続=持続可能性」につながるのである。新型コロナ禍を乗り切るうえでも、渋沢栄一から学ぶことは多い。

2021年5月17日

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岡田 晃氏

1947年生まれ。
日本経済新聞社産業部記者、編集委員、テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト(WBS)」マーケットキャスター、経済部長、WBSプロデューサー、テレビ東京アメリカ社長などを歴任し、2006年に経済評論家として独立。同年大阪経済大学客員教授にも就任。

岡田 晃(おかだあきら)