日本の問題

「成長戦略2021」を読む

慶應義塾大学名誉教授
竹中 平蔵 氏

政府の経済政策の枠組みとなる「骨太方針」(経済財政運営と改革の基本方針)と「成長戦略」が閣議決定された。今年の成長戦略の中から私なりの注目点を3点挙げたい。

第一は、SPAC(特別買収目的会社)制度の創設が検討される点だ。これは、自らは事業を営んでいない企業が上場し、その後スタートアップ企業などを買収することでスピーディな上場を実現する仕組み。「空箱上場」と批判されることもあるが、現実にアメリカではこれによってスタートアップ企業の資金調達機会が拡大し、他の多くの国々でも同様の試みが行われつつある。投資家保護と両立させながら、上場の機会をより柔軟に提供することが期待される。

第二は、企業の退出コストを抑えるため、破綻の際の私的整理を速やかに活用できるような法改正が検討される点だ。新型コロナ禍による企業部門の債務残高は1年間で52兆円増加した。今後、企業の過剰債務問題の表面化が予想され、私的整理の柔軟活用策を急ぐ必要がある。

第三は、健全な競争政策の確立のため、公正取引委員会のアドボカシー(提言)機能を強化することが決められた点だ。成長戦略の基本は健全な競争政策であり、これを実現するための公取の強化が期待される。

これらがどこまで実行されるか、またいかに速やかに実現されるかが「ポスト新型コロナ」の日本経済の姿に大きな影響を与えるだろう。

2021年8月2日

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竹中平蔵 氏

1951年生まれ。
ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学教授などを経て2001年の小泉内閣発足後、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣などの閣僚を歴任。慶應義塾大学名誉教授。政府の各種会議のメンバーも務める。
【竹中平蔵公式ウェブサイト】

竹中平蔵(たけなか へいぞう)