日本の問題

デジタルの力で地域活性化

学習院大学国際社会科学部教授
伊藤元重 氏

政府が進めようとしている「デジタル田園都市国家構想」は、デジタルの力を活用して地域を活性化しようとするものだ。

50年前、当時の田中角栄首相が打ち出した日本列島改造論はその後の日本の経済発展の基本設計となった。全国を新幹線や高速道路などのネットワークで結び、国土の均衡ある発展を目指した。この政策の成果は大きいが、様々な問題も生み出した。大都市の混雑、地方の過疎化、地域社会の画一化などである。このままの流れが続けば、地域社会の明るい未来を描くことは難しい。

デジタル技術はこうした流れを変える力を持っている。デジタルは地方と大都市の距離を縮める。オンライン会議やオンラインのライブ配信などを活用することで、生活環境のよい地方の生活を享受しながら、大都市のビジネスや文化活動につながることができる。鉄道や高速道路がかつて日本の国土計画の基盤になったように、デジタルのネットワークがこれからの日本の国土計画の柱となるべきなのだ。地域社会がデジタルで大都市と密につながり、そこに多くの人材を引きつけることができれば、地域社会の活性化だけでなく、多様化が進むことも期待できる。

新型コロナ禍で多くの人が実感したように、社会のデジタル化のスピードは加速化している。このデジタル化の波を、日本をより好ましい方向に改造することに利用したいものだ。

2022年1月17日

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伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。現在、学習院大学国際社会科学部教授、東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)