日本の問題

スタグフレーションの気配

学習院大学国際社会科学部教授
伊藤元重 氏

スタグフレーションになるのではないかという声が大きくなっている。スタグフレーションとは、不況(停滞)を意味するスタグネーションと物価上昇を意味するインフレーション(インフレ)を組み合わせた造語。物価が上昇していく中で、景気が悪化していく現象である。通常のインフレでは、景気はむしろ過熱していることが多い。ただ、景気が悪くても、原油や食糧などの価格が上昇することで物価が上がることがある。それがスタグフレーションだ。

「新型コロナ禍」からの経済急回復で資源価格は大きく上昇していたが、ウクライナへのロシアの侵攻でその流れが加速している。戦争は当初考えられていたより長期化しそうな雲行き(3月23日現在)で、石油や天然ガスの供給制約も長引きそうだ。日本経済にスタグフレーションの波がくるのは時間の問題だろう。

スタグフレーションの扱いが難しいところは、マクロ経済政策によってそれを是正するのが困難なことだ。インフレを抑えるために金融や財政を引き締めれば、景気をさらに悪化させる。かといって、景気を刺激するような政策をとれば、インフレはさらに激しくなるだろう。これまでデフレ対策のための極端な金融緩和政策をとってきた日本銀行にとっても金融政策の舵取りはますます難しくなる。結局のところ、根本原因である資源の需給バランスが戻るのを待つしかないのが実状なのだ。

2022年3月28日

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伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。現在、学習院大学国際社会科学部教授、東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)