日本の問題

物価上昇の日米比較

東京大学名誉教授
伊藤元重 氏

日本とアメリカの物価の動きには大きな違いがある。アメリカは物価だけでなく賃金も上昇し、典型的なインフレの状況だ。一方、日本はエネルギーや食料の価格は上昇しているが、賃金があまり上がっていない。このため、サービス関連の価格が上がらず、消費者物価全体の上昇は鈍く、インフレとは言い難い。

ただ、エネルギーや食糧の価格高騰は世界的な動きで、この点について日米間に大きな違いはない。そこで賃金の動きの違いが問題になる。物価が高くなっても賃金が上昇すれば、人々の生活への悪影響は緩和される。逆に、日本のようにエネルギーや食料の価格が上がっているのに賃金があまり上がらなければ、それだけ人々の生活を直撃する。専門的な言い方をすれば、実質賃金が下がっていることになるのだ。

日本の賃金が上がらないことに終身雇用や年功賃金という日本的雇用が大きく影響していることは明らかだろう。経済状況が変化したからといって、企業は賃金を大きくは変更できない。正規社員の給与を変更できなければ、非正規の賃金だって大幅に上げることはできない。

物価が安定していれば、賃金の硬直性も安定化効果ということで悪いことではないが、資源価格などが高騰する変化の時代には硬直性が裏目に出る。このままエネルギーや食料の価格が上昇を続ければ、実質賃金はますます下がってしまう。

2022年6月13日

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伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。2016年から2022年3月まで学習院大学国際社会科学部教授。東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)