日本の問題

日米それぞれのインフレ対応

大阪経済法科大学
経済学部教授
米山秀隆 氏

エネルギー価格高止まりや円安による輸入品価格上昇を背景に、企業物価が前年比10%近くの伸びに達するなど物価上昇が止まらない。企業物価は企業間の取引価格を示すもので、需要段階別でみると、原材料価格の上昇度合に比べて最終財価格の上昇度合は緩やかなものにとどまっている。これは、各企業が原材料価格が上昇しても経営努力でその多くを吸収し、最終財価格上昇につながらないようにしていることを意味する。値上げで取引先を失わないためである。企業努力の過程では従業員に支払う賃金も抑制される。

これが原材料価格上昇に対する日本企業の典型的な反応であるが、これに対しアメリカ企業の場合は、原材料価格の上昇分は最終財価格に転嫁する傾向が強い。最終財価格を値上げできるのであれば、日本企業のように賃金を抑制する必要はとぼしい。この結果、アメリカでは物価上昇と賃金上昇が連動する傾向が強い。それでも直近は賃金が物価に追いつかず、インフレが景気に及ぼす悪影響が強く懸念されている。

日本の場合は原材料価格上昇を吸収するため賃金が抑制され、そのことが更なる物価上昇を抑えている面もある。ただし、その過程では消費者の購買力が低下することとなり、それが景気を悪化させる要因となる。インフレに対するアメリカ流の対応でも、日本流の対応でも景気に悪影響が及ぶ厳しい局面にある。

2022年7月25日

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米山秀隆 氏

1963年生まれ。
野村総合研究所、富士総合研究所、富士通総研などを経て2020年9月から現職。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に、『捨てられる土地と家』(ウェッジ)、『縮小まちづくり』(時事通信社)、『限界マンション』(日本経済新聞出版社)など。
【米山秀隆オフィシャルサイト】

米山(よねやま) 秀隆(ひでたか)氏