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「未完」のTPP、今後に注目

東京大学名誉教授
伊藤元重 氏

TPP(環太平洋パートナーシップ)に英国が加盟することになった。EU(欧州連合)から離脱した英国にとっては地理的に遠い地域の連携のように見えるが、TPPにはカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど、旧英国連邦の主力メンバーが入っており、英国のグローバル戦略にとって大きな一歩となる。TPPにとっても英国加盟によりGDPでEUに近づく規模となった。旧メンバー国のグローバル戦略にとっても重要な動きだ。

TPPはもともと米国主導で交渉が進められていた。しかし、トランプ大統領の時代に大きな方針転換があり、米国は交渉から離脱。日本にとって大きな痛手だったが、それでも日本は粘り強く交渉をまとめていった。関税撤廃や透明性の高い投資ルールの制定など、レベルの高い自由化を目指すTPPは、アジア太平洋地域の中で重要な存在となっている。

興味深いことに当初、TPPから事実上排除されていた中国や台湾が参加申請を行なっている。中国や台湾の参加を容認することには様々な問題もあるので、これがすぐに進展するとは思われない。ただ、TPPが既にできあがった制度であるというよりも、今後更に広がりを持ちうる存在であることに注目すべきだ。

日本はオーストラリアやカナダなどの先進国としっかりと連携をとりながら、TPPをより発展的に展開させ、自由で開かれたアジア太平洋戦略を進めていくべきだろう。

2023年7月31日

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伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。2016年から2022年3月まで学習院大学国際社会科学部教授。東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)