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中国経済は「日本化」するか

東京大学名誉教授
伊藤元重 氏

中国経済で、不動産バブル崩壊の懸念が高まっている。不動産価格が上昇を続ける中で、大手不動産企業のバランスシートは膨張を続けてきた。不動産価格が上がり続ける限り問題はないが、いったん下がり始めると、不動産企業は巨額の債務が返済できない状況に追い込まれる。

こうした事態は「中国経済の日本化」と呼ばれている。1990年代の日本では不動産価格の下落が深刻な不良債権問題につながり、景気低迷が長期化した。同じようなことが中国で起きるかもしれないというのだ。

中国の不動産市場がバブルになったのは、中国経済が内需型の成長に舵を切り過ぎたことが大きい。かつての中国は輸出に大きく依存した成長を続けてきたが、近年は国内投資に大きくシフトしてきている。米国との貿易問題などの影響もあるだろう。ただ、かつての日本がそうであったように、過剰に内需を刺激すると、不動産市場にバブルを起こすことになる。外需依存のころと同じような高い成長率を目指したことも不動産市場での過熱を引き起こす原因となった。

今後の注目点は、中国政府が不動産バブル崩壊の影響をどこまで抑え込むことができるか、そして過剰な需要拡大を生まないようにしながら、うまく安定成長軌道に乗せることができるかどうかだ。世界の約18%のシェアを握る中国経済の動向は、日本経済にも大きな影響を及ぼす。

2023年10月2日

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伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。2016年から2022年3月まで学習院大学国際社会科学部教授。東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)