時代を読む

低価格志向からの脱却を

東京大学名誉教授
伊藤元重 氏

マージン率、あるいはマークアップ率が欧米に比べて低いのが日本企業の特徴のようだ。マージン率とは企業の設定する販売価格と限界費用の乖離率のことだ。一方、マークアップ率は限界費用に対する販売価格の割合。例えばマークアップ率が1.1なら、この企業は限界費用に10%上乗せした価格を設定していることになる。

マークアップ率が低いということはそれだけ安い価格が設定されているので「良いことでは」と思われるかもしれない。ただ、世界的なインフレの中でも価格に転嫁できないで苦しんできた日本企業の状況をみると、そうとも言えない。マークアップ率が低いということはコストギリギリの価格設定をしているということだ。マークアップ率が高ければ、そこから出てくる資金を利用して品質向上や人材育成への投資に回すこともできる。低いマークアップ率の日本企業ではこうした分野への投資が乏しかった。

2023年度の政府の経済財政白書(年次経済財政報告)では、日本の低すぎるマークアップ率についての詳しい分析が行われている。長引くデフレで染みついた低価格志向から脱却して、より付加価値を高める経営への移行が必要であるというメッセージだ。

その前提条件は、企業がそうした分野へ十分な投資を行うための資金を確保すること。そのためにはある程度のマークアップ率が求められる。デフレ思考から脱した価格設定が求められるのだ。

2023年11月27日

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伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。2016年から2022年3月まで学習院大学国際社会科学部教授。東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)